小学生の頃から映画とともに育った自分にとって、相次ぐ俳優さんの訃報は誠に残念でならない。私が育った時代、日本映画は斜陽の一途を辿っており、観るのはもっぱら巨額を投じたハリウッド作品が多かった。四十を超える頃から日本映画の持つ味わいがようやく分かるようになり、五十を超えるとハリウッド作品を観るととても疲れるようになってきた。最近は邦画を好んで観ているような気がする。
年をとるに連れて若い役者の名前が覚えられなくなってきた。言葉は悪いが、有象無象で一括りにしてしまえるように見える。それは強烈な個性を感じないからだと思う。その役者じゃなくても似たような画が撮れるんじゃないか…そう思う役者が多すぎる。
その人にしかない存在感を持った俳優さんが、一人また一人と旅立っていく。夏八木勲さん、三國連太郎さん、藤田まことさん、緒形拳さん…そしてとうとう高倉健さんが今月10日にひっそりと旅立たれた。私生活を切り売りする最近の俳優とは一線を画する、まさに最後の「銀幕のスター」だったように思う。
旅立たれたあとに、逸話として多く語られ初めているが、そのどれもが私達が知るところではなかったはずだ。そうした苦労話が市井に流れないところが、大スターだったという証にほかならない気がする。
大好きな俳優さんが旅立つと、とても残念で悲しくなる。しかし一方で、同じ時代を生き、最高の演技を観ることができた幸運に感謝する。なかでも孤高の存在だった高倉健という世界最高の俳優と同じ時代を生きられたことに感謝しつつ、すこしでも「格好良い日本男子として生きたい」と思う。
映画を通して多くのことを教えてくださった高倉健さん、御冥福をお祈りいたします。